小松川7号線は東京の篠崎方面から千葉県の船橋方面までつながる高速道路である。
この高速道路ではこんな怪異談が語られている。
ある男性がこの高速で車を走らせていると、前方の路肩に、こちらに背を向けて歩いている女性の姿が目に入った。
(車が動かなくなり、緊急電話にでも向かっているのだろうか?)
そう男性は考えたが、緊急停止している車など見た記憶はなかった。
それに路肩とはいえ高速である。こんなところを歩くのは危険だと思い、男性はスピードを落とし、女性を追い越した先で停車し保護しようと思った。
速度を落としながら、注意深く女性を見てみると、何かを点々と落としながら進んでいる。
女性が落としているもの、それは彼女の体の一部だった。
腕や肩、背中の肉。彼女の体の様々な部位が崩れ落ち、それが点々と路肩に転がっているのだ。
足ももげ落ち、女性は路肩に倒れ込んだ。
胴体に残っていた片腕が抜け、それが這う様に進み、最後は消失してしまった。
この不気味な女性は「ひきずる幽霊」と呼ばれる存在で、大型の車両によって引き起こされた事故の犠牲者だという。
事故の様子を再現しながら路肩を歩くのだと言われている。
このように、道路上に現れる都市伝説妖怪は数多く存在し、不気味なものからどこか笑ってしまうものまで様々だ。
今回はそんな道路に現れる都市伝説妖怪の数々を紹介してみようと思う。
岡山県の東部にある中国自動車道の津山インターチェンジには、奇妙な少女が出現すると言われている。
白いブラウスに赤いスカート、ランドセルを背負った少女が、時速80kmほどのスピードで、トラックや自動車の間をスキップをしながら疾走していくのだという。
この少女は「スキップ少女」と呼ばれるているが、別の地方のあるトンネル内にも、同様にスキップしながら追いかけてくる「スキップ少年」という存在がいる。
以前「100キロばばあ」という、高速移動しながら車を追いかけてくる妖怪を紹介したが、同種の妖怪であろう。
他にも北海道に目撃情報がある「リヤカーおばさん」という存在がいるが、こちらもリヤカーを押しながら80kmほどのスピードで疾走する妖怪である。
目撃談によると、車とスピードを競う様にして楽しそうに並走するそうで、おじさんバージョンもいるという。
何かしながら車を追いかけてくる存在では、「鞠つきマリちゃん」という妖怪もいる。
その名の通り鞠をついているのだが、鞠をつきながらもの凄いスピードで車を追い越していくのだという。
このように、車に対抗意識を燃やして追いかけてきたり、スピードを競ってくる妖怪は日本各地に存在しているが、どこか楽しげな印象がある妖怪たちである。
昭和初期から平成のバブル期の頃まで残る目撃談にこんな話がある。
ある道路にサラリーマン姿の男性がふらふらとさまよっている。
何かを探しているようなのだが、男性がいるのは車道の真ん中である。
よくよく見れば、男性には頭部がない。
この男性は交通事故によって頭部を切断されてしまい、死んだあとも無くなった頭部を探し続けているのだという。
「首さがし」と呼ばれている妖怪である。
同名の存在が東京都の八王子でも語られているが、こちの「首さがし」は人魂のような姿をした存在だ。
なぜ「首さがし」と呼ばれるのか詳細が不明な話のためよくわからないが、大正時代頃には語られていた話のようだ。
また、車道に急に老婆が飛び出してきて、轢いてしまったかと思いあたりを見ても消失しているという、「飛び込みばあさん」という妖怪もいる。
冒頭で記した「ひきずる幽霊」と同種の話は他にもある。
深夜の道路を下半身だけで走る「走る下半身」と呼ばれる存在の目撃談もあるし、筆者のサイト「妖怪王」には足首だけの幽霊の目撃談もある。
道路に出没する妖怪で極めつきなのは次に紹介する妖怪である。
ある人物が、深夜に車の通りがほとんどない道で車を走らせていると、ヘッドライトが照らす前方に、道路に座り込んでいる人物がいるのに気がついた。
運転者は慌てて急ブレーキを踏んだ。
急制動がかかった反動で運転手はハンドルに顔を伏せるような恰好になった。
人をはねたような感触はなく、運転手は胸をなでおろした。
それにしても、なぜ車道に人が座っているのか。
運転手は顔を上げてみた。
車道に座っているのは、大きな黒いリュックのようなものを背負った少女のようであった。
少女は地面に散らばった何かを必死に拾い集めている。
道路を渡ろうとしてリュックの中身を道路にこぼしてしまったのだろうか。
よくよく見てみると、少女は濡れて歪な形をした物体を拾っており、それを必死に胸のところにかき集めている。
長いクダのようなものや、袋状のもの・・・少女は手を真っ赤に染めながらそれらを拾い集めているのだ。
それが何であるかが分かった。でも、まさか・・・。
だが、どう見ても少女が拾っているのは、バラバラになった臓器であった。
肝臓や胃、腎臓、大腸・・・少女は地面に落ちている臓器を拾い集め、自分の腹に空いた穴に必死に戻しているのである。
少女が背負っているものもリュックではなかった。
大型トラックのものと思われるタイヤで、その大きなタイヤが少女の背面にめり込んでいたのだ。
このあまりにグロテスクな姿の少女は「内臓少女」と呼ばれる都市伝説妖怪である。
トラックに轢かれ死んでしまった少女の霊が妖怪化したものだという。
轢かれたのは突然のことだったため、少女は死んだ事を認識出来ず、事故で散らばった内臓を拾い集め続けているのだろうか。
そうだとしたらなんとも哀しい話だが、目撃したらトラウマになること必至の妖怪である。
見てきたように道路に現れる都市伝説妖怪の中には痛ましい姿をしたものも多いが、それは悲惨な事故を無くして欲しいという必死な願いの現れなのかもしれない。