「封印作品」を紹介したいと思う。
権利的な問題や内容や描写があまりに過激なものなど、封印作品となる理由は様々だが、今回取り上げたいのは、差別問題による封印作品である。
昨今、出版業界もテレビ業界も、差別問題に関しては非常に敏感で、当時は問題が無かった描写でも、現在では出版・放送ができなくなった作品が多数存在する。
もちろん、差別を撤廃しようという活動自体はとても有意義な事である。だが中には、これは少しやりすぎではという印象を持ってしまうものもある。
差別問題のなかでも、特に多くの封印作品を生んだものに黒人差別問題がある。
黒人差別撤廃運動を行っている団体は国内に数団体確認できるが、大阪府堺市に本拠を持つ「黒人差別をなくす会」は漫画や小説、テレビ番組など様々な作品・番組に対する抗議活動を行ってきたことが知られている。
その活動で有名なもののひとつに、藤子不二雄の『オバケのQ太郎』のあるエピソードに対する指摘がある。
この指摘を受けて『オバケのQ太郎』は、1988年から2008年までの20年もの長期にわたる絶版状態になった。
確かに同会から指摘された『オバケのQ太郎』のエピソード「国際オバケ連合」は、問題のある内容であった。
世界各国からオバケの代表が正ちゃんの家に集まり会議を行うというストーリーなのだが、アフリカ代表のオバケは人食い人種を彷彿とさせる「バケ食いオバケ」であるとして、他の国のオバケから悪口を言われるエピソードが存在するのだ。
この指摘を重く見た出版社は、1988年に同作品を掲載した「オバケのQ太郎」てんとう虫コミックスバージョンと藤子不二雄ランドバージョンの該当の巻が収録された単行本を回収する事態となった。
さらに、『オバケのQ太郎』の全ての増刷も行われなくなり、完全に絶版状態となった。
この状態は2009年まで続くのだが、絶版状態が続いたのには別の理由があった様で諸説語られている。
『オバケのQ太郎』は藤子不二雄Aと藤子・F・不二雄の両者が共同で権利を保有する作品であり、権利関係が複雑になっているためではないかと見られていた。
だが、現在では亡くなった藤子・F・不二雄の遺族が了解していなかったためだとする説が有力視されているようである。
この『オバケのQ太郎』の黒人差別問題に関して、出版社側は『バケルくん』第2巻に収録された黒人が出てくるエピソードや、『藤子不二雄の漫画百科』『ジャングル黒ベエ』なども封印してしまった。
『ジャングル黒べえ』も主人公の黒ベエが、黒人を未開人のような容姿で描いており、それを出版社が差別と受け取られる事を危惧し、早めに処置をとったようだ。
この黒人の差別的描写の問題は、他の作家の漫画作品にも飛び火した。
「黒人差別をなくす会」は、1990年9月、手塚プロダクション、手塚治虫作品を出版する出版社に内容証明を送った。
黒人が差別的に描かれているため、なんらかの手を加えるべきだとするものであった。
これにより、当時各地で開催されていた「手塚治虫展」で、黒人の出てくる『ジャングル大帝』のパネルが撤去され、パンフレットからも削除されることになった。
その後、手塚治虫の名作『ジャングル大帝』も、しばらく出版できない状態が続くことになった。
しかし、手塚治虫が故人のため描きなおしが不可能であることや、手塚に差別意識がなかったことが考慮され、当時の時代背景を示すものであるという断り書きを巻末につけることで再び出荷が開始された。
他にも、佐藤正の『燃える!お兄さん』、鳥山明の『Dr.スランプ』、秋本治『こちら葛飾区亀有公園前派出所』に黒人の差別表現があったとして修正がなされている。
ちなみに佐藤正の『燃える!お兄さん』は、連載当初、佐藤の師匠である新沢基栄の代表作『三年奇面組』『ハイスクール奇面組』と酷似しているとして批判を浴びたが、他にも差別問題に絡む問題が発生したことがあった。
それは「サイボーグ用務員さんの巻」という回で、主人公のお兄さんが用務員になった担任をさんざんに馬鹿にする下りがあり、用務員に対する職業差別だと言う論議が巻き起こった。
この議論は少年ジャンプの回収騒動にまで発展することになった。
黒人差別問題で封印作品となった作品で最も有名なものは、絵本の『ちびくろサンボ』であろう。
こちらも1988年に、各社廃刊に追い込まれている。
元々の原話はインド人の少年の話だったが、アメリカでは黒人の話に置き換えられて発売された。
そのうち、この話が差別的だという声があがるようになった。その理由として以下のようものがあげられている。
1、「サンボ」とは、黒人呼称の差別語である。
2、バターになった虎を食べるサンボに、大食らいのイメージを与えている。
3、サンボの派手な衣装は、黒人のファッションセンスを馬鹿にしている。
4、散歩をしているサンボは、黒人が怠け者だというイメージを与えている。
他にも、理由は沢山あるのだが、このへんにしておこう。
結局、各社自主回収され、その後は『チビクロさんぽ』『トラのバターのパンケーキ』とタイトルを変えて刊行された。
最近では、差別に該当しないと判断し、『ちびくろサンボ』のタイトルで復刊する企業も増えてきた状況にある。
他にも黒人差別に該当しているのではと噂されるキャラクターや漫画は多い。
「クレクレタコラ」というタコの主人公が演じる実写モノがあるが、これなどはタコラが黒人に似ていると指摘され問題になった。
画像の右上のキャラクターがタコラだが、どうみても抽象化されたタコであり、筆者が見る限りでは問題はないと思うのだが・・・。
むしろ、「クレクレタコラ」で問題になりそうなのは、作品の内容のほうである。
タコラはなんでも物をほしがる性格で、そのためならどんなことでもする。
詐欺や盗みなどは序の口で、毒を盛る、縛り上げた他のキャラクターを弓矢で射る、爆破する。なんでもありである。
スイカ割りをする回では、タコラによって親友のキャラが失明させられたりもする。
さらには本作の220話には「気違い真似して気がふれたの巻」という、現在では放送禁止用語そのままな回もある。
作中でも「気違い」のフレーズが連発され、内容も相当に危ない。
気が狂った真似をしていたタコラは、嘘がばれてみんなから袋だたきにあう。そして、叩かれ過ぎたタコラは本当に気が狂っておしまい、というすごい話であった。
ちなみに本作自体は封印作品ではない。近年CS放送などでも放映されたが、さすがに「気違い真似して気がふれたの巻」だけは内容が危険すぎて放送出来なかったようである。
他にはアニメ「ムテキング」に出てくる悪役の「クロダコブラザーズ」なども黒いタコが黒人を連想すると指摘されている。
最近でも、TV番組「ダウンタウンDX」に出てくる郵便ポストのキャラ「トスポくん」、女性からの人気が高い「ピングー」なんかも問題視されている。
郵便ポストとペンギンのキャラにそこまで燃えなくとも良いと思うのだが・・・。