箱男の幻影に襲われた女性がいる。
Fさんは、東海地方のその町でひとり暮らしをしている。
元々は、裕福な家庭で育ったお嬢様であった。
だが、何不自由ない生活は退屈そのもので、学校卒業後は同じ町内ではあるが独立し、一人暮らしを始めたというわけだ。
その彼女に、箱男の引き起こす奇妙な事件が襲いかかる。
会社の帰り、頭から箱を被った男が道端に立っていた。
箱男は悠然としながら、立ちつくしている。
無論、町で育った彼女は箱男の噂は聞いていた。
「あっ 箱男だわ、やばい」
震えながら、Fさんは、箱男の横を通過した。
その瞬間、腐ったような匂いがぷーんと鼻孔を刺激した。
足早に、立ち去ったFさんの後頭部に向かって、箱男は向き直り
「ギギギ」
という音を立てて、姿を消した。
その声はまるで、虫の鳴き声のようであったという。