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赤い部屋その1

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赤い部屋その1

Gさんはごく普通の会社員である。
今は管理職を務め、多くの部下を教育する責任ある立場にある。
だが、こんな真面目なGさんも、学生時代は毎週末新しい女性をナンパしていた。
そんな節操のない日々を、のんべんだらりと送っていたのである。
ある日の事。Gさんは、ディスコで踊らず、酒を浴びるように呑んでいる女を見つけた。Gさんは、にやりと笑った。今週は、この女を弄んでやろう。彼の心を悪魔が支配した。
「どう、踊らない?なんかあったのかな」
バブル時代らしい、歯の浮くような台詞だ。
その時、彼は彼女のファッションの異常さに気がついた。その女は足先から、上まで赤一色で統一されていた。
「そろそろ、俺の車でどこか休めるところにいかない?」
いよいよナンパ師の仕事の始まりである。女は長い髪の毛をかきあげながら、答えた。
「ふん、下心みえみえね、いいわ、うちの家においでよ」
女はGさんを誘い、彼の車で自宅まで送らせた。その自宅は神奈川県某町のはずれにあった。
林道を走り、人気の無い場所に、ぽつんと一軒の洋館がある。
「あの洋館が私の家よ、父からもらって一人で住んでいるの」
女はけだるそうに、洋館を指差すと言った。だが、その洋館に一歩入った瞬間、Gさんは背筋に悪寒が走るのを自覚した。家の内部全てが、赤一色なのだ。

この女やはりどこか変だな、やはり今回限りでおさらばするか。Gさんは不安げに室内を観察する。
赤、赤、赤、まるっきりの赤の世界。文字どおりの「赤い部屋」である。
だが、一点だけが違った。
ベットに乗っている布団だけが、白い布団だったのだ。赤の中にある唯一の白。それが逆に妙な安堵感につながった。
そして、二人は酒の酔いも手伝って激しくベットで絡み始めた。
この女あっちの相性はいいな、少し飼っておくか。Gさんはそんな事を考えながら、ふと布団のことを聞いてみた。
「この布団だけ、白いんだね」
すると、女はにやりと笑った。
「近々赤く染めるのよ」
女が赤い歯茎を見せながら、きっぱりと言った。何故か、その笑顔が冷たく感じられ、ぞっとしたものが彼の脳裏をよぎった。
そして、事がすみ、女が寝息を立て始めたとき、Gさんは布団の下に何かがあるのを発見した。
「おや、なんだ? 」
頭の下あたりに何か固いものがある。布団の上からでもわかるぐらいに固いもの。彼がごそごそと、布団の下に手を入れて、それを引きずり出した。
それはナイフであった。まるで、血に染まったように赤く、脂ぎった液体が付着している。
彼のナイフを持つ手が震えた。
そうか、赤く染めるのは、この布団を赤く染めるのは、俺の血なのか。

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