対馬に住む日下部さんは、昆虫界では知る人ぞ知る有名人である。
テレビ東京の番組・テレビチャンピオンの昆虫王で優勝し、今は昆虫ライターとしても活躍している。
山中に踏み込んでいく仕事柄、どうしても異界の連中との付き合いが多くなるのだ。
以前、「怖い話」で彼が見た「白装束の女」という霊的な話を紹介したのだが、今回は、化け物の話をしてみたい。
「大きなヤマネコは、うちの母が子供の頃に見たことがあるそうです」
さりげなく。日下部さんは言った。
日下部さんの住む対馬は、自然が豊かで、希少種のツシマヤマネコで知られている。
現在、生息数が減っており、現在保護が叫ばれている山猫だ。
実はそのツシマヤマネコとは別に、もっと大きな猫がいたというのだ。
彼の母親が子供の頃。とある神社に行った時に事件は起こった。
石段に大きな猫が寝ていた。悠然と、気持ちよさそうに大きな猫が寝ている。
「ツシマヤマネコかしら」
日下部さんの母親は、そう思ったのだが…。なんとも言えない違和感があった。
「なんか、おかしい」
よく猫を観察してみた。すると…妙に大きい。
通常のツシマヤマネコより、二倍以上は充分にある。
小さな子牛ぐらいの大きさだ。
「お化け猫だわ」
冷静になってくると、怖くて堪らなくなってきた。
「あわわわっ」
恐くなった日下部さんの母親は、そのまま逃げ去った。
「おかあさん、大変だ」
自宅に逃げ込み、母親に相談した。
無論、この母親とは日下部さんにとって祖母にあたる女性である。
息せき切って帰ってきた娘に声をかけた。
「なにが、あったんだい」
母親は冷静な態度に勤めた。
母親の顔を見て安心した彼女はこう言った。
「いたの、大きな猫が…神社の石段に」
すると、母親はこう言った。
「それは、神様の使いかもしれないね」
「神様の使い? 」
「そうだよ、大きな猫は神様が使わしたものかもね」
そう言って、親子は笑いあった。
当時は、そんな巨大な猫が度々、目撃されたのだ。
牧歌的な話だが、日本には巨大猫の目撃談は多い。
あのイリオモテヤマネコの生息する西表島にも、巨大猫の伝説がある。
以前「UMA」で紹介したヤマピカリャーである。
この山猫は、イリオモテヤマネコより遥かに大きい。
「イリオモテヤマネコのでかい固体をそう呼ぶのだ」
という人もいる。
「明らかに別種だ」
という人もいる。
島の人たちも、その正体はよくわからないのだ。戦前まで、祝い事があれば食っていたと言われている。
一説によると、島内の奥地にコロニーを作って生きているとも言われている。
なんとも、旅情をくすぐられる猫である。
やはり、日本には巨大な山猫がいるのであろうか。
実は巨大な猫の話は他の方からも聞いた。
日下部さんの対馬とは正反対、北海道の話である。
つまり、巨大猫は北と南で目撃されているのだ。
Uさんは、業界では有名なカメラマンだ。
筆者ともコアマガジン誌上で、横溝正史の足跡めぐりという企画でお世話になった。
いつも、仕事に熱い男だ。
「山口さん、この話、おもしろいんですよ」
彼はいきいきと、自分の母親の体験を語った。
彼は北海道の出身なのだが、彼の母親が子供の頃の話だ。
わらび猫という猫がいたのだという。
「よく、背中に乗って遊んだもんだよ」
彼の母親はそう言って、回想談を彼に話して聞かせた。
「あの頃の猫は大きかった」
特に珍しい猫でもなく、普通に存在していたらしい。
しかも、その猫の毛は綺麗な緑である。
「わらびのような緑色をしているから、わらび猫っていうらしいですよ」
彼は悪戯っぽく笑った。
緑色の猫。確かにそんな猫がいたら、かわいい。しかも、子供を背中に乗せて運ぶのだ。まさに、巨大猫に相応しい。
北海道、対馬、沖縄。
巨大猫たちは、今も生き残っているだろうか。