Dさんが中学生だった頃、80年代末頃の話らしい。
Dが小学校から一緒だった親友が死んだ。
原因はスピード違反のトラックに、轢かれたからであった。
その遺体は、内臓がはみ出し、道路一面血だらけで悲惨な現場であったという。
轢いたドライバーはそのまま逃走した。友人達は怒りに震えた。
「身勝手な運転手をゆるさねえ」
「絶対にみつけてやる」
ちょうどその日、Dさんはその亡くなった親友を草野球に誘った日であった。
Dさんの友人は、自転車にグローブを積み、頭に野球帽をかぶり待ち合わせのグランドに行く途中にその悲劇に遭遇した。
「野球したかったよな、もっと遊びたかったよな」
「おい、目を覚ませよ、また一緒に野球やろうぜ」
急を聞いて現場にかけついたDさんと野球仲間の4名は、悲しくて我慢できなかった。
とにかく、一番頭にきたのは轢いた犯人がそのまま逃げてしまったという事である。
「犯人だけは、絶対につかまえてやる」
Dと仲間は心に誓い、犯人に後悔させるために野球帽、自転車、グローブという扮装で事故現場で立ち続けた。
(犯人は絶対同じ現場を通るはずだ)
Dさんたちにはそのような確信があった。
仲間は7人集まったので、交代で現場に立ち続けた。
すると、徐々にと町の噂となり、ついに後悔の念に駆られた犯人が自首した。
後日、刑事さんがDの自宅にきてこう言った。
「よくやったなー。迫真の演技だったらしいな」
「いやーそうでもないです」
「おかげで犯人の奴はノイローゼ気味だよ」
「はぁ」
「よく血のりまで使ってやったな」
「血のり?」
「全身血だらけのかっこうで立ってたんだろう」
「いえ、血のりまでは」
「おかしいなー。犯人は血だらけで立つ野球帽の少年を見て、怖くなって自首したらしいのだが」