平成初頭に亡くなった祖母が娘盛りの頃と言うから、大正末期のことであろうか。
祖母は奇妙な話を聞いた。
ある村で老婆が息を引き取った。まだその地域は土葬であったので、3人の息子たちは、泣く泣く棺桶に母親の遺骸を納めると、村の墓地に葬った。
だが、気がかりな事があった。
母は死ぬ直前に、奇妙な遺言を残していたのだ。
「土葬してから3日後に掘り起こして欲しい。私は必ず蘇るから」
あまりに不気味な遺言に、3兄弟とも俄かに信じることが出来ず、埋葬してから3日が経っても掘り返さず放置していた。
しかし、更に何日か経つと、末っ子の弟は我慢の限界に来てしまう。
「母さんの遺言なんだ、掘り起こすべきだ」
この弟の主張に兄たちは鼻で笑った。
「死者が蘇るなどあるわけはない」
だが、末弟の意志は固く、数名の人間を用意すると、亡き母親の棺桶を掘り起こした。
「母さん、約束通り掘り起こしに来たよ」
末弟はそう言いながら棺桶の蓋を取った。すると、母親が鬼のような苦悶の表情で死んでいた。
仰天した弟が棺桶の蓋の裏側を見ると、爪で無数に引っかいた跡がある。
何度も何度も引っかいたのであろう。血がにじみ、はがれた生爪が突き刺さっている。
やはり、母親は3日後に復活したのだ。
そして、暗闇の恐怖の中、棺桶の裏蓋を引っかきながら再び死んでいったのだ。