これは、会社員のOさんが後輩から聞いたという話である。
「先輩、ザシキワラシっているんですよね」
こんな感じで、その後輩はOさんに話してくれたのだという。でもいきなりこんな話をされても、Oさんはにわかに理解できなかった。
「ザシキワラシって、あの子供の姿をした妖怪?」
当然、Oさんはいぶしかげに聞き返した。
「ええ、そうです。僕はザシキワラシのおかげでキャプテンになれたんです」
「なんだって、本当なのか」
その後輩ははなかなかの好青年であったという。
さわやかな人柄で嘘をつくような人物ではなかった。
彼は、大学時代バスケットをやっていて、日本大学のバスケ部に所属していた。
そこでキャプテンを務めていたのだが、大学の体育会系のキャプテンというのはなろうと思っても、なかなかなれるものではない。
そのキャプテンの座をザシキワラシのおかげで射止めたとは、どういうことなのであろうか。
彼の話によると、当時は日大のバスケット部には宿舎があり、その宿舎には、代々こんな話が語り継がれていたのだという。
「この宿舎には、ザシキワラシがいる。そのザシキワラシを見た者は、必ずレギュラーになれる」
そんな内容だった。だが、その後輩は、どうせ都市伝説だろうとたかを括っていた。
ある夜の事、宿舎で寝ていると全身が動かなくなった。
目を開けてみると、何者かが布団の上から、もの凄い力で押さえつけており、まったく抵抗できない状況になっていた。
「誰だ!!」
必死に目を凝らすと、布団の上で体を押さえつけていたのは、おかっぱ頭の小さなザシキワラシであったという。
「はっ、放せ」
必死に抵抗したものの、どうにもできず、気が付くと朝で気を失ってしまったいた。
とくに異常もなく、昨夜見たのは夢だったのかと思っていた。しかし、この頃からその後輩には不思議な変化が起きた。
何故かめきめきとバスケットの腕があがったのだ。特別な練習方法を取り入れた分けでもないのに、ドリブルやパス、シュートなど全ての動作の精度やスピードが上がり、すぐにレギュラーの座を射止めるようになった。
そして、学年が上がるとキャプテンにまで選ばれた。
その後輩はザシキワラシのことなど信じていなかったが、自分に起きた変化を考えると、あの夜に見たザシキワラシのおかげだとしか考えられなくなったという。
いまは、その宿舎もない。ザシキワラシはどこに行ったのだろうか。