2009年頃から、不気味な都市伝説がネット上で流布されている。
「八尺様」という巨大な女妖怪に関する話題が静かなブームとなったのだ。
「八尺様」はこんな話である。
ある男性のもとに、「ぽっぽぽぽ」という奇妙な声と共に、2mはあろうかという身長のワンピースを着た女が現れる。
女は姿を消すが、そのことを祖父に話すと、それは八尺様の可能性があると指摘される。
もし、八尺様に魅入られると、とり殺されてしまうのだという。
祖父達は慌てて、ある老婆を家に招き相談する。
老婆は、男性の部屋の至る所にお札を貼る。そして「決して外に出るな」と忠告する。
その日の夜、お札が貼られた部屋で男性が震えながら閉じこもっていると、「外に出てもいいぞ」という祖父の声が聞こえてくる。
だが、祖父の声にしてはどこかおかしい。
忠告を守り部屋を出ないでいると、「ぽぽぽぽぽ」というあの声が聞こえてくる。
やはり声の主は祖父ではなかった。
男性はいつのまにか気を失い、気が付くと朝になっていた。
家族は涙ながらに男性を迎えてくれるが、祖父によると八尺様の恐怖はまだ終わっていないのだという。
男性は老婆や親族達が乗るバンに乗せられ車で移動する。車が動き出すと老婆は念仏を唱え始めた。
しばらくすると、またあの声が聞こえてくる。
目を開けるなと言われていたが、男性はどうしても気になってしまい目を開けてみると、八尺様がバンと併走するように走っていた。
男性は再び目を閉じ、恐怖にかられながら、ただお札を強く握りしめていた。
やがて、老婆によって危機が去ったことが知らされる。
親族達がバンに乗っていたのは「八尺様」の目をごまかすために、男性の血縁者達が集められ、乗せられていたのだ。
男性が握りしめていたお札は真っ黒に変色していたという。
これが「八尺様」の話である。
「八尺様」の話は他にもあるが、2m以上の巨大な女が若い男に目をつけ、とり殺すという物語が多く、鬼女や山女の伝承上に位置する現代妖怪談のように思える。
「八尺様」が身につけている服装は赤い服とも、黒いロングコートとも言われているが、中には着物を着ていたという話もある。
また「八尺様」の伝承地に関しても諸説あり、山陰、東北、北陸という候補地が噂されている。
更に、「八尺様」は地蔵や塚を使った結界で封印されているともされているが、数年に一度ぐらいの頻度で、人間を襲うと言われている。
一説には、ある地域で結界が崩壊し、集落の外に逃走したとも噂されている。
筆者のもとに送られてきた情報によると、「八尺様」に魅入られた人はなかなか逃げきれないらしく、紹介した話にあったように部屋中にお札が貼られた場所に隔離しなければならないとも、僧侶4~5人で守護しないと危険であるともいわれている。
だが、執念深い八尺様は、狙った男を何処までも追跡してしまうらしい。
2ちゃんねるや都市伝説系サイトでは、今までもいくつかの都市伝説や怪談が流布されている。
「八尺様」の他にも、南極に棲む人間に似た巨大な生物「ニンゲン」や、見た者は発狂するという「くねくね」、憑き物の一種である「被猿(ヒサル)」など、ネットから始まり、リアルな社会にまで拡散していく現代妖怪は多い。
それにしても「八尺様」の話は、民俗学なエッセンスも加味され、よく出来たキャラ設定も魅力的だ。きっと、現代の人気妖怪として長く語られることだろう。
現代人がネットというコミュニケーションツールを使って流布させるアーバンフォークロア(都市伝説)は、日々劇的に進化し、新しいストーリーを紡ぎ出す。
去勢された草食男子が話題となる昨今、肉食女子の代表のような妖怪「八尺様」が噂になるのも、時代の必然なのかもしれない。
都市伝説とは、その時代を生きる大衆の無意識が具現化したものなのである。