ジャーナリストのLさんが楽しげに語ったのが、”桃娘”であった。
「昔はさあ、アジアの金持ちは桃娘を買い求めたもんだぜ」
Lさんは似合わない口ひげをさすりながら、話を続けた。
「桃は仙人の果実とも言われるよね。そんな桃そのものの娘が養育された事があったらしいよ」
Lさんはどうやら酔っているらしく、饒舌だ。私はさりげなく反論してみることにした。
「桃ですか、確かに桃の節句って言うように、日本だって縁起の良い食べ物さ。あと当然桃はセックスを連想させるよね。桃の形態は、豊満なヒップを思い出させる。でもLさん、桃娘って話はいきなり飛躍しすぎだね」
「そうさ、だから昔のアジアの金持ちはこぞって桃娘を育てたと言われているんだ」
「育てるんですか」
「そうさ、女の赤子を買ってきて、桃を主食として育てるんだ。そうすると、その女の子は桃の匂いがするし、唾液や尿にも仄かに桃の匂いが混じるらしい。これが桃娘さ」
そんな事が本当にあったのか。私がしばし言葉を選んでいるとLさんが続けた。
「まあ、金持ちたちは、桃娘を妙薬として珍重してね。桃娘の尿や唾液を争って呑み、夜は性欲のはけ口にした。桃娘とのそういう交わりが長寿につながるとされたってわけよ。こうして桃の香りのする娘達は金持ちの老人の道具として日々もてあそばれた」
「ひどい話ですな」
「そうだろうね。当然、赤子の頃から桃中心の食事しかしていない上に、老人に弄ばれる桃娘の寿命は短かった。大概が10代で命を落としたそうだ」
桃娘、そのかわいい言葉とは裏腹に暗く悲しい話である。