「日本怪奇集成」(富岡直方)には、王子の狐狸に関するこんな怪異談が語られている。
明治39年に砲兵工廠(コウショウ)の一部が、王子の滝ノ川村に移転することになった。
その時、敷地に稲荷があったので、それを打ち壊し工場を建てようとした。
すると責任者の某少佐の妻の夢枕に狐が現れた。
「家を壊された恨みは深いぞ。おまえの一族を一人残さず殺してやる」
と狐は幾晩も繰り返した。
そのあとすぐ少佐の子供が二人立て続けに死んだ。
これはいかんと思った少佐は新しい祠を建て、狐を供養したという。
だが、翌年また異常な出来事が起こった。少佐の夢枕に狸が出てきた。
「我は滝ノ川村にすむ5匹の古狸のひとりである。狐には祠を建てておいて、我らを侮り、老友3匹を殺害するとはどういうことなのか」
この夢に驚いた少佐だったが、事態はすぐさま深刻化する。