ネット上には奇妙な噂が飛び交っている。
そこには真偽不明の怪異な物語が多い。
数年前まで評判だったのは「見たら死ぬホームページ」である。
いくつかパターンがあるのだが、ここではいくつか紹介しよう。
「なんの変哲もない部屋の風景がずっと映っていて、女の幽霊が突然現れ、画面を移動しくいくページ」
「ひたすら、お経が流れ、意味不明の画面が続くページ」
「山中のふるびた井戸が映り、その中からボロボロの服を着た女がよろよろと這い出してくるページ」
これらのホームページは、いづれも筆者が自ら実験台になって確かめたものである。見てからどれも5年経つが、私は死亡していない。
中には
「このホームページを見た人は100年以内に死にます」
というギャグのようなページもあった。そりゃ100年経てば、今いる人間のほとんどは死んでいる(笑)。
他にも、見たら「貞子がモニターから出てくる」というホームページもあった。
貞子は、鈴木光司氏の小説「リング」から生まれたキャラクターだが、ネットの中ではまるで実在の霊体のように扱われている。
この貞子が映画さながらに、モニターから長い髪を振り乱しながら、出てくるというのだ。
このホームページも筆者は確認したが、モニターからは電磁波以外は何も出てこなかった。
以前「怖い話」で紹介した「チャットの亡霊」のように回線を移動する幽霊の話はいくつも報告されている。
幽霊の成分は電磁波に近く、パソコンの回線を伝わり移動する事が可能らしいのだ。
確かに幽霊は、テレビ局やラジオ局に多く出没していることから、電波などと関連が深いと思われる。
筆者の友人でブルースミュージシャンとして著名なカメリア・真紀女史の証言によると、彼女が通っていた滋賀県の某スタジオには「ホワイトボーイ」という妖怪が存在していたという。
この名前は彼女がつけたわけではなく、代々そのスタジオで出没が噂されていた、謎の存在の呼び名である。
この「ホワイトボーイ」という現代妖怪めいた白い男は、スタジオというハイテク御殿に吸い寄せられた霊界の住民だったのかもしれない。
また妖怪ポップスで人気のバンド「妖怪プロジェクト」のリーダー平林氏も、道端ですれ違うと同時に消えてしまった老人を目撃している。
霊はアーティストにすり寄ってくるものなのかもしれない。
ちなみに、筆者の友人でプロの霊能者であるあーりん女史は、筆者からやばい心霊写真が送られる時に限って、パソコンがダウンすると語っている。
デジカメで撮影された写真データに心霊が映り込む事により、その写真が添付されたメールが送付先で霊障を引き起こしているらしい。
霊とパソコンの関連を考えるにあたり、これらは興味深い事例である。
振り返って考えてみると、リアルオンリーの時代から霊はミーハーであった。
TV・ラジオ局には幽霊が出現し、CDの曲には“霊の声”が踊った。
レベッカや岩崎宏美の曲に、奇妙な声が混じっていると騒いだ昔が懐かしい。
幽霊は科学で解明されるどころか、科学そのものの最先端にも憑依したのである。
別の言葉で言うと、先端技術にこそ、常に霊の存在が噂されてきたのだ。
つまり、科学で謎がとけてない部分に“幽霊=ゴースト”は潜んでいるのだ。
歴史的にも幕末から明治維新にかけて、“カメラで写真撮影されると魂が抜かれる”という流言に酷く怯えたりしている(一部の伝説によると、坂本竜馬など幕末の志士が写真撮影の時に手を懐に入れているのは、魔よけのためらしい)。
昭和以降、自動車の時代になると、江戸期に流行った、客を乗せた駕籠が目的地に着くと駕籠の中がもぬけの空になっていたという、“駕籠抜け幽霊”の怪談が、“タクシー幽霊”に進化したりしている。
これらの事例は、我々日本人の最先端技術への畏怖心の現れであろう。
20世紀末に、パソコンや携帯電話が普及され始めた当初もそうであった。
パソコン、特にMacには“意志がある”として、真剣に話したり、名前をつけ恋人や友人のように扱う人々がいた。
また、携帯電話から出る電磁波によって“本当に脳腫瘍になる”と信じ、電磁波よけのステッカーを貼ったり(こうなるとほとんど魔よけのお札レベルだが、米国では裁判が行われたと、まことしやかに囁かれた)、携帯電話の電波で飛行機が墜落したと思いこむ人が出てきたりもした。
ちなみに飛行機に乗るときに、荷物に入れた携帯の電源を切り忘れたうちの妻は、罪悪感で卒倒しそうになった(笑)。
基本的に人間(特に日本人)は、先端技術に言いしれぬ不安と、恐怖を抱くようだ。
ハイテクの影に人は幽霊の姿を見るのである。