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犬鳴峠の火だるま幽霊

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犬鳴峠の火だるま幽霊

福岡県の犬鳴峠は全国的に有名な心霊スポットであり、様々な噂が囁かれている。
深夜にもかかわらずヒッチハイクを求める女性が目撃されたり、血にまみれた姿の老婆が出るなどの目撃談に始まり、様々な怪異が報告されている「旧犬鳴トンネル」の存在、さらには立ち入ってしまうと村民に殺されてしまうと言われている「犬鳴村」の話など、心霊現象から恐ろしい風習を持つ治外法権的な集落の存在まで、多くの怪奇談が囁かれている場所なのである。
そんな犬鳴峠には、火ダルマになった男の霊の目撃談も存在する。
深夜、夜の闇が支配する峠に、全身を炎に包まれた霊が出現するというのだ。
炎で体が焼かれるというそのあまりの苦痛から、まるで踊っているかのような姿で地獄の苦しみを見る者に訴えかけるのだと言われている。
この話は80年代に福岡県を中心に広く流布され、そのあまりに不気味な姿からひどく恐れられたものであった。
なぜこの峠に全身火ダルマの男の霊が現れるのか。
それはある実在した陰惨な事件が関連しているのだと言われている。

事件は1988年の12月、20代の工員の男性が5名の不良少年グループに「車を貸せ」と迫られたことに端を発する。
男性がこれを断ると不良グループは暴力をふるい、さらには拉致して犬鳴峠へと連行してしまう。
そして度重なるリンチや崖から突き落とそうとしたりするなどの行動を経て、前述した旧犬鳴トンネルで男性にガソリンをかけ、火をつけて殺害してしまったのであった。
あまりにも残虐な犯行であり、加害者には激しい怒りの念を禁じ得ない事件である。
厳密には、この事件が都市伝説化したものかどうかは不明なのだが、炎に包まれた霊がこの事件の被害者だとしたらなんともやりきれない。
犬鳴峠では他にも事故や事件が数多く起きており、付近に存在するダムでも自殺者が出たり、殺害された被害者の遺体が遺棄される事件なども起きている。
こうした様々な事件や事故が起きていることが、数々の都市伝説を生む要因になっているとも考えられる。

犬鳴峠に事件や事故が数多く起きるのには、地形的な要因が関係しているのかもしれない。
事件が起きた犬鳴峠は江戸時代の頃から峠道として存在していたようだが、相当に険しく交通に適さないようなひどい道だったため、あまり利用されなかったようである。
その後は細々と使われるようになるが、本格的に使われるようになるのは、昭和2年に道路が敷設されてからであった。
昭和20年代になって、旧犬鳴トンネルが掘られるのだが、一説には軍事目的で掘られたトンネルだと言われている。
普通のトンネルとは異なる目的で造られたため、一般の交通にはあまり適したものではなかったという。
そのため、交通路として使われると道幅の狭さなどから事故が頻発するようになり、問題を解消するため、新犬鳴トンネルが造られた。
使われなくなった旧犬鳴トンネルは、ある程度の広さがありながら人気が無い場所として、暴走族などのたまり場になり、前述したような犯罪にも利用されるようになってしまう。
また、その後ダムが造られた際には、旧道の一部と村を水没させており、そうした背景からこちらも人があまり近づかない場所となり、自殺や事件を生むようになる。
こうして見ていくと、地形的な要因と開発の歴史が多くの事故や事件が生み、それが数々の都市伝説の発生源になったとも考えられるのだ。
地形的なものだけが心霊スポットや都市伝説を生む要素だとは言えないが、こうした噂が生まれる地には、やはりなにかしらの因果関係が存在するものなのである。

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